le fleuve

 

朝霧を照らす太陽、たちのぼる土の匂い。
ぴょこぴょこと歩き回る鶏。朝露に濡れるイチゴ。

ここ、『麦畑自然農場』は、こだわりの農法で養鶏、養蜂、農業を営む農場です。

 

ここで生まれ育った上垣河大さんは、誰よりも『素材』にこだわるショコラティエ。
最高の素材を最高のまま届けるために、上垣さんのお店、『le fleuve』(ル・フルーヴ)は”無店舗販売”という業態に挑戦しています。

le fleuveの無店舗販売

le fleuveは、兵庫県養父市の山奥に工房を構えるお菓子屋さんです。
le fleuveは店舗を持ちません。
その理由は、『コストを削減して、その分上質な素材を使うため。』
これまでのお菓子屋さんの常識を覆す販売形態には、シェフの上垣さんの思いが込められています。

「飲食業界では、多くのシェフが悩みを抱えています。
それは、『この素晴らしい材料を使いたい…でもこれを使うと利益がでない…』という悩みです。
お店の運営には、家賃、人件費、光熱費などの多くの費用がかかります。
それらを回収するためには、素材にばかりお金をかけられないのです。」

ならばお店を無くしてしまおう、というのが上垣さんの発想。
節約したコストを、上質な素材を使うために惜しみなく使います。

「ル・フルーヴでは、一般のお菓子屋さんには使えない価格の素材を使っています。
例えば、イタリア産のアーモンドは一般的な価格の3.5倍、フランス産の小麦粉は3倍以上です。
一度、材料屋さんの担当者さんが『間違えてませんか?』と電話をくださったことがありました。」

最高品質の食材を惜しみなく使うため、店舗を無くした上垣さん。
しかし、店舗がないということは、多くの障害を生みます。

通りかかるお客さんに興味を持ってもらえませんし、
お客さんの『今、食べたい』という思いに応えられません。

常識とは真逆の、リスクだらけの険しい道のり。
その道のりのスタートには、上垣さんの育った農場の風景があります。

le fleuveができるまで

自然に囲まれた生い立ち

上垣さんは1989年生まれ。
『麦畑自然農場』で平飼いされる鶏たちとともに、のびのびと育ちました。

農場の作物はとても美味しく、上垣さんは2歳にして、バケツ2杯のイチゴを食べたことがあるそう。
『美味しい素材は、手を加えなくても十分においしい。』
毎日の食卓で、素材のありがたみを実感する、ぜいたくな日々でした。

小・中学生の間には、素材づくりの大変さも学びます。
小学校高学年から不登校になった上垣さんは、『働かざる者食うべからず』方針のお父さんのもと、農場の手伝いを始めたのです。


無農薬の野菜作りにどれほど手間がかかるのか、
鶏のストレスを減らすのがどれほど大変か、
身をもって体感してきた上垣さんは、今も『農家への尊敬』を忘れません。

あるとき、アップルパイをどうしても食べたくなった上垣さん。
田舎である、自宅の周りではアップルパイが買える場所がありませんでした。
ならば、と自分で作ったのが、上垣さんとお菓子作りとの出会いでした。
その後も、自家農園の卵を作ったプリンや焼き菓子を作り、
地元のイベントや実家の通販で販売をしていました。

ショコラの腕を磨く

転機が訪れたのは20歳になった時。
麦端自然農場の取引先だったある旅館で、『洋菓子マウンテン』の2代目、水野直己シェフが先代の洋菓子店に帰ってきているという話を聞きます。
そしてお菓子づくりを本格的に学びたいと思い、『洋菓子マウンテン』で修行を始めました。

もともと、独学でボンボンショコラづくりをしていた上垣さんでしたが、
販売するための量を作るとなると、勝手がまったく違います。

ひとつひとつ型に流している間に、繊細なチョコレートはどんどん変化していきます。
分離してしまったり、固まってしまったりしないよう、常にチョコレートの状態を意識しながら作業することが不可欠です。
最初の一粒から最後の一粒まで、完璧な美味しさのチョコレートを作るための技術を習得していきます。

運よく狭い厨房だったため、疑問点があれば、目の前にいるシェフにすぐに質問ができました。
理路整然と、具体的にもらえたアドバイスを、上垣さんはどんどん吸収していきます。

ついには『洋菓子マウンテン』のショコラを任されるように。
試作段階だったためシェフがほとんど使ったことのない、エンローバーという機械の活用にも取り組みました。

チョコレートにコーティングを施すエンローバーは、綺麗にコーティングするのが難しい機械です。
温度調整をあやまるとコーティングが厚くなりすぎるため、目指す食感や味のバランスを実現できません。
手作業ならば、手の感覚がヒントをくれますが、機械はそうはいきません。
機械の中を流れるチョコレートが、今どんな状態か?
ココアバター結晶の量をイメージしながら微妙なコントロールを行います。

シェフとともに、多くの発見をしながら技術を身に着けていった上垣さん。
5年間の修行期間を経て、自身のブランド、『le fleuve』をオープンしました。

「美味しい食べ物が育つ、実家の環境でお菓子作りがしたいなと思いました。
どこにもない美味しい卵とハチミツがあって、水も美味しい、空気も美味しい。
自然が豊かで、娯楽がなくて、集中して美味しいものが作れる。
でも、人通りのない場所なので、お店を経営していくのは難しいです。
ならばいっそお店を無くして、減らしたコストで、より良いお菓子を作りたいと思ったんです。

やっぱりお菓子屋さんはお金がかかる。
お店を運営するのもお金がかかりますし、必要な機械は何百万円もするものばかりです。
お店がそんな状況だから、弟子にあまりいい給料を出せません。
すると、弟子の人が独立するまでにお金を貯められない、そんな悪循環がお菓子業界にあるんです。
僕のやり方が、他の人にとってのヒントになればいいなと思います。」

 

le fleuveのチョコレートの特徴

le fleuveのチョコレートの特徴は、『最高級の素材の美味しさ』です。
チョコレートを通して、素材の魅力がくっきりと浮かび上がってきます。

 ganaché ~ガナッシュセレクション~

上垣シェフが育った、麦畑自然農場のはちみつを使ったガナッシュ。
はちみつならではの花の香りと、すこしねっとりとしたテクスチャが、
フランボワーズ、マロン、ゴルゴンゾーラなどの素材と絡み合います。
使っているはちみつは2種類。
スッキリしてくせがなく、甘酸っぱさがある「たらはぜのはちみつ」と、
濃厚でコクがあり、少しスモーキーな「栗のはちみつ」です。
ふたつのはちみつの違いを楽しめるよう、個性が正反対のはちみつを使いました。

中でもご紹介したい一粒がこちら『ハチミツシトロン』です。

レモンは外側の黄色い部分を傷つけると、わずかな苦みのある、清々しい香りがします。
その繊細な香りがそのまま閉じ込められたガナッシュ。
酸っぱいだけの『レモン味』とは違う、果実そのものの美味しさです。
国産レモンの外皮をたっぷりと使い、美味しさをしっかり感じられるようにしました。
お店でも人気の一粒です。

 

 

praliné ~プラリネ・セレクション~

アーモンド、ヘーゼルナッツ、そばの実などを使った、香ばしいプラリネクリームを楽しむチョコレート。
le fleuveで使うプラリネクリームは、業界では珍しく、自家製です。
これは、と思った美味しいナッツを価格を気にせず使い、
理想のナッツのロースト具合、粒の大きさ、甘さに調整したプラリネクリームは、
他のお店では味わえない美味しさです。

中でもご紹介したい一粒がこちらの『クロワッサンアマンド』
自家製クロワッサンを混ぜ込み、カリカリとした食感をアクセントにしました。
固すぎず柔らかすぎない食感と、しっかり発酵させたクロワッサンの美味しさが楽しめます。
「フランスの人に『そんな手があったなんて!』と言われるようなチョコレートが作りたい」というのが発想のきっかけです。

仙櫻

地元養父市の銘蔵が作る日本酒、『仙櫻』を使ったショコラ。
口に含んだ瞬間、米麹の旨味がぶわっと広がる一粒です。


地元で大切に守られてるお酒を使って、地域に貢献したい、という思いと、
華やかな香りが特徴な『仙櫻』なら、香りの強いチョコレートを合わせても、お酒の香りが綺麗に出せるはず、と取り組みました。
『仙櫻』の美味しさが楽しめるよう、チョコレートの形にもこだわりがあります。

パッケージへのこだわり

繊細で、香りの飛びやすいボンボンショコラを美味しいままにとどけるために、
le fleuveではパッケージにも工夫をしています。

箱を開けると、ボンボンショコラは袋に包まれた状態。
袋の中には脱酸素剤が入っています。
酸素はチョコレートやナッツの油分を酸化させ、味を落とす原因になります。
さらにこの袋は酸素を通さない特殊な袋でできていて、
ボンボンショコラの香りを逃がしません。

例えば、『プラリネ』は、袋を開けた瞬間に、ナッツの香りがぶわっと広がります。
まるでバターピーナッツの袋を開けたような濃密な香りは、美味しさを保ち続けている証拠です。

「お客さんの手元に届いて、すぐ食べてもらえればいいのですが、
いつ食べてもらえるか、僕らにはわかりません。
いつでも美味しい状態で食べてもらうために、この袋を使っています。」

一方で、水分がこもりやすいのがこの袋の難点。
中に入れるチョコレートの水分量をコントロールする必要があります。
例えば、水分を吸いやすい『塩』をチョコレートに使ってしまうと、
袋の中で結露が発生してしまう原因に。
塩で仕上げるのは美味しいですが、この袋を使う場合は使えません。

「こんな細かいところまで考えられるのも、無店舗販売ならではかなと思います。
ふつうのお菓子屋さんは、お店を運営して、売り子さんを雇って、やることがたくさんです。
一方で、僕はお店を持たない分、じっくりと勉強して、それをチョコレートに活かすことができます。」

これまでのお菓子屋さんの常識を超えて、素材の美味しさを大切にする、上垣さんのチョコレート。
ぜひその美味しさを味わってみてください。

le fleuveのアクセス・営業時間

le fleuveは店舗を持たないお菓子工房なので、営業時間はありません。
ただし、事前に電話予約をした場合に限り、工房でお菓子を受け取ることができます。

上垣シェフの育った自然をその目で見たい方は、どうぞ足をお運びください。

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