Noel Verde ノエルベルデ

BRAND STORYブランドストーリー

スペイン語で「緑のサンタクロース」を意味する「Noel Verde(ノエルベルデ)」

カカオ生産者への技術指導、現地でのチョコレート製造・国外への輸出販売、すべてを手掛ける、高橋力榮(たかはしりきえい)さんのブランドです。
「作り手」「買い手」「売り手」「社会」「自然」「生物」「未来」が優しさでつながる七方よしを目指しています。


オーガニック本来の魅力とは


もともと実家が酪農をしており、農業に親しんでいた高橋さん。大学卒業後に、イスラエル、スペイン、イギリスなど、海外を遊学する中で『バイオダイナミックファーミング』という自然との調和を重視するオーガニック農法を知り、自分でもやってみたいと強く憧れていたそうです。

「スーパーに食料を買いに行った時、まず確認するのは、やっぱり値段ですよね。差が分からなければ安い方を選ぶ。日本人のごくあたりまえの消費行動だと思います。ですが、海外のスーパーは、オーガニックとそうでないもの、はっきりと区画が分けられていて、消費者が明確な意思のもと、選べるようになっています。そういう文化が根付いて、農作物が流通している状態をこの目で見てきたので、オーガニックは日本人の多くが感じている『何となく特別なもの』というよりは、それが『本来の自然な営み』という風に捉えています」

自分のオーガニック農園を持つ、という夢を抱き、2008年に南米エクアドルに家族と移住した高橋さん。現地の大規模なバナナ農園で、農業技術者として有機殺菌剤の開発に従事することになります。

「その農園は非常に高温多湿なエリアにあるため、カビが原因で葉っぱが焼けて光合成が阻害され、バナナが太らないという問題があったんです。そこでオーガニックの殺菌剤を32種類ほど作り、効果の高いものが2種類くらいできたんですが、雨の量が圧倒的に多いので問題を完全に解決することはできず……さらにエルニーニョ現象で、バナナが水浸しになってしまい運営の危機にも陥りました。そこで農園のオーナーと話し合い、雨に振られて肥料が流されてもバナナが育つ『強い農園』を作ろうということになり、3年かけて何十キロにも及ぶ長い排水溝を掘って、こまめに有機肥料を撒くことにしました。その策が功を奏して、生産性が飛躍的に向上しまして、目標だった『日本に100万箱のバナナ箱を送る』ことを達成することができました」

農園の経営を維持しつつ、オーガニックを実践することは非常に手間がかかる。それを実感してもなお夢を諦めずに、次はバナナ以外の品目の模索を始めます。

「将来的に自分の農園を持つことを考え、栽培する農作物をコーヒーとカカオまで絞ったのですが、どちらがいいか迷っていたんです。そんな中、エクアドルにしかない品種のカカオがあることを知って……そのアリバ種のカカオから作られたチョコレートを実際に食べてみたら、ものすごく華やかな香りがして感激しました。非常に美味しい。本当に食べたことがない美味しさだったんです。そこから、よし、じゃあカカオにしよう、と決めました」


どんなに実現や維持が難しくとも、オーガニックにはそれを上回る魅力がある。高橋さんはそう考えています。

「農業というのは、どうしても、自然を増やすというより、実はちょっと壊してるんです。山林を開いて、山を平らにして。人間が住んで、ご飯食べていくためには。やっぱりちょっと自然を傷つけなきゃいけないんですよね。 それでも、自然の中で生かされているからこそ、ご迷惑かけないというのが、やっぱりいいんじゃないかなと。例えば肥料や農薬にしても、使ったものが3年間かけて0になるのか、1週間で分解して0になるのか。 早く分解して自然に戻した方が、環境負荷も少ないし、微生物も死なないですよね。自然と人間が共存共栄するためには、やはり持続可能性のあるオーガニックだなと想いを深め、今に至っています」

理想のカカオ農園を求めて


カカオに注力することを決心した高橋さんは、農園の研修や輸出業について学んだ後、カカオ加工品を日本に輸出する会社を設立します。

元気なカカオを育てるには、まず土から。人体に有害な金属類を含まない、健全な土壌で育ったカカオ豆から、厳しい品質管理のもとでチョコレートを製造する。そんな「アーストゥーバーチョコレート」を目指して、動き出しました。

「まず、カカオを栽培する土地を選定するにあたって、国中の土地のリサーチを始めました。オーガニックに適している土地とそうでない土地があるので、もし土地の選定を間違えてしまったら、一生オーガニックができないというリスクもあるからです」

そこで、エクアドル各地のカカオ農家を巡り始めますが、オーガニックの製品といえども、農家には利益がほとんど還元されていないという現状を知ります。

「流通業者、加工業者、スーパーなど、介在するところに利益の大半が渡ってしまい、農家の取り分は10%ほどしかないんです。現地の人達と話していく中で、チョコレートにする瞬間にマージンが大きく生まれることが分かりました。それなら、自分が流通にも加工にも携われば、農家さんにもっとお返しできる。そう思って、自分の農園を購入するより前に、チョコレート作りを始めました」

自然を守りながら、自然の恵みをできるだけ多くの人に。サンタクロースのように、分け隔てなく佳いものをはこぶ、そんなイメージのもと、チョコレートブランド「ノエルベルデ」を設立。製菓用のクーベルチュールを製造し、サロンデュショコラでコラボレーションしたシェフとのご縁で、カカオの講師としてセミナーにも登壇します。



「そうやって、チョコレート製造のノウハウを蓄積しながら、理想の土地に目星が付いて試験栽培も進めていました。具体的には、遺伝子の異なる品種ごとに栽培してみて、本当にそこで栽培することができるのか、などです。そうして2年半かけて試験をして、実がたくさん成って、当初の約束通り、その土地を買おうした矢先、なんと、土地所有者が国のファンドから融資を受けてしまったので、個人には売れなくなってしまった、と。これには大変なショックを受けました」

途方に暮れつつも、なんとか気持ちを切り替え、チョコレートの製造に注力することを決めた高橋さん。コンクールの出品に向けて準備を進める過程で、生産者との絆が深まっていったそうです。

「付き合いの長く信頼できる農家さんに、無料で農業技術を提供して、発酵に関してもどういうものが良いのかということを伝え、生産者も製造者も販売者も、みんなで育っていくというレイズトレードを提唱していきました。というのも、インターナショナルチョコレートアワード(世界的なチョコレートのコンクール)に出品した際に、もうちょっと発酵が上手くいってたら……検品をもっとしっかりできていたら……という悔しさと共に手ごたえはあったので、しっかり現地の農家さんに栽培や発酵の情報をお伝えして、実践してもらうことで、よりよいチョコレートができあがると感じたからです」

現在では、信頼できる製造パートナーも得て、エクアドル国内の11産地、100人ほどの生産者の繋がりができました。

「会社の共同経営者として製造を任せているダニーロ・バレンシア君は、出会った時点で既にチョコレート作りを3~4年近くやっていて、カカオ豆のフレーバーやテイスティングにも詳しいので、私も彼からたくさん学んでいます。共に歩んでくれる皆さんと一緒に育っていこう、という気持ちで現地でチョコレート作りに邁進しています」

佳きもの、の源流にあるのは


エクアドルに渡って17年近く経ち、自身のオーガニック農園を持つ、という夢にはまだ至らないものの、そこに向かう活動の中で、周囲の生産者の意識も格段に上がっているそう。

「ありがたいことに『リッキー(高橋さんの現地での愛称)のおかげでオーガニック農園に目覚めたよ!』と慣行栽培からオーガニック農法に舵を切ってくれた農家さんがいるんです。『自分たちのカカオが、こんなに素晴らしいパフェになってるんだ』って写真をファイリングしてね、皆に見せて回ってる農家さんもいて、彼らの気づきやモチベーションアップに貢献できたのは本当に嬉しいですね」

言語も文化も異なる国でオーガニック農法を根付かせるために必要なのは、共に暮らし、農家さんと並走すること。高橋さんはそう考えています。


「品種も土地も勿論大事なんですけれども、同じくらい重要なのが『人』なんです。海外で日本人がカカオに携わることは、簡単なことではありません。カカオの集荷場を立てようと思ったら、組もうとしていたパートナーが実は麻薬のバイヤーで、知らぬ間に片棒を担がされるところだった、なんてこともありました。たとえ現地に大きな企業の研究施設が設立されても、その知見を農家さんにシェアすることなく撤退されてしまえば、現地には何一つ残りません。インターネットで見聞きできる表層ではなく、実際の現地というのは、チョコレートを楽しむ側からは想像も付かないくらい、危機的な状況にあります」

だからこそ、自分の目で確かめて、誰と情報を共有するか、丁寧に判断していきます。オーガニック農法と同様、時間をかけて、手間をかけて。美味しいチョコレートは信頼できる人間関係の構築から。

「まず農家さんには、栽培や発酵の過程で、もし不良な豆が混じってしまった場合『最終的なチョコレートの味がここまで変わってしまうんだ』ということを理解をしてもらう必要があります。これまでとやり方が変わって、彼らの作業が増えることになっても、納得した上でやってもらえなければ意味がないからです。信頼関係があってこそ、農家さんもカカオを安心して栽培できるし、我々もより良い味わいを探求できます」

理想に向けて一歩一歩、農家さんに優しさをもたらしながら前進する高橋さん。
まさに幸せをはこぶサンタクロースのようです。

「育った環境もあって、私はずっと農業をしていくのだろうと思っていたので、自分が加工や流通の側に足を踏み入れるとは思ってもいませんでした。ですがエクアドルで暮らし、さまざまな業種の方と情報交換していく中で、ますます夢は膨らんでいます。自分の農園の候補地もまだ諦めずに探していますし、グルテンフリー・ラクトースフリーのカフェも展開したくて、パティシエの免許も取得中だったりします。農園自体を観光地化するのも面白いなと思っていて。例えば、ビオトープやパーマカルチャーの概念を取り入れた施設や体験ができたり、古代の農法が実際に再現されていたりするような、世界最先端のカカオ農園を作って、訪れた方にオーガニック農法の面白さや、土の大切さに気付いてもらうことが最終目標です」

皆が笑顔になれる世界を目指して。
挑戦を続ける高橋さんの、優しさあふれるチョコレート、是非ご賞味下さい。

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