「チョコレートが大好きなんだけど、毎日食べたら太っちゃうかな…?」
と心配ではありませんか?
それもそのはず、チョコレートは『体に悪い』というイメージが強いです。
ここ40年ほどの間は、
一覧に戻る
- 「チョコレートを食べたら太る」
- 「チョコレートは虫歯の原因」
- 「毎日チョコはメタボまっしぐら」
- 『毎日のチョコレートで心筋梗塞を防ぐ』
- 『チョコレートに含まれているカカオポリフェノールは美容にいい』
- 『チョコレートの原料、カカオ豆はスーパーフード!』
- なぜチョコレートが薬だと思われていたのか
- どのようにチョコレートが扱われていたのか
- 実際にどんな効果があるのか
目次
チョコレートの薬はどのように使われていたの?
チョコレートが薬として活発に使われていた時代は、1500年ごろから1700年ごろのことです。 カカオの生産地を植民地にしていたスペイン・ポルトガルを中心に、 フランス、イタリアなどのヨーロッパの国々で薬として扱われていました。 チョコレートには『体を冷ます』という特性があると考えられていて、 発熱が見られた時に処方されていたようです。 (ただし、このころの医学は、現在とまったく違う『体液病理説』という理論に基づいていて、 現在ではデタラメであると考えられています。) 病気の時にたびたび処方されていたチョコレートは、 『なんとなく体にいいっぽい!』『しかも美味しい!』 というイメージが、王族・貴族の間で持たれるようになり、 チョコレートが一般の人に広まるまでは、『薬』として愛されるようになりました。 ちなみに、このころのチョコレートは固形ではなく液体でした。 当時は固形のチョコレートを作る技術がなく、カカオ豆をすりつぶしたものを、水・砂糖と混ぜて飲んでいました。トリビア①:チョコレート薬は映えが大事
チョコレートは大変高価な薬だったため、貴族や王族しか飲めない、『特別なもの』でした。 そのため、飲むときには『気持ちを盛り上げて飲もう!』という意識があったようです。 チョコレートを飲むための食器には最高級の物が使われ、 テーブルには砂糖菓子などが盛られてデコレーションがされていました。 (バースデーケーキを華やかにデコレーションしたり、いいお皿を使ったりするのと同じ感覚ですね。) 1650年以降にはチョコレートの映えスタイルがますます流行し、 チョコレート専用の食器『ショコラティエール』や『マンセリーナ』も登場しました。 『薬』として飲むだけでなく、『嗜む』という文化が、この時定着し、 体を治療するためだけではなく、客人をもてなすためにも使われるようになりました。トリビア②:チョコレート専門の薬剤師がいた
ポルトガルの宮廷には『チョコラテイロ』という役職がありました。 『チョコラテイロ』の仕事は、いわばチョコレート専門の薬剤師で、- 貴族や王族にチョコレートを処方する仕事
- ポルトガル軍のためにカカオを備蓄する仕事
なぜチョコレートが薬だと思われていたの?
ヨーロッパでチョコレートは薬として処方されていましたが、 その期待されている薬効は、『熱さまし』などのデタラメだったと考えられています。 では、なぜそのような薬効があると考えられたのでしょうか? それは、チョコレートがヨーロッパに持ち込まれたときに、薬効を勘違いしたからです。 1500年代、スペイン人がアステカ王国(現在のメキシコ周辺にあった王国)を訪れた際、こんな記録を残しています。アステカ王国の王、モンテスーマはカカオの実から作られた飲み物を指して、『これは女と交わるために飲むのだ』と言った。つまり、1500年ごろ、アステカ王国ではカカオが『精力剤』として扱われていたのです。 これを見たスペイン人は、『現地の王族が飲んでいる、体にいいらしい飲み物』として チョコレートをスペインに持ち帰りました。 この時、ヨーロッパ各国の医師たちが、 「これは体にいいらしいけど、薬としてはどんな分類になるんだろう?」 という議論を重ねました。 当時、ヨーロッパでは主流だった医学の『体液病理説』に基づいて、 薬は『体を温めるもの』『体を冷やすもの』などに分類していました。 このとき、チョコレートは『体を冷やすもの』に分類されてしまったため、 熱さまし効果があると勘違いされてしまったのです。
チョコレートはいつから体にいいと思われていたの?
ヨーロッパで信じられていた薬効が勘違いだったと聞くと、 『チョコレートが体にいいって本当は嘘なんじゃない?』と思ってしまいますよね。 しかし、チョコレートの発信地、アステカ王国では、スペイン人が来訪するよりもはるか昔から、 チョコレートが飲まれていたことがわかっています。 詳細な文献が残っていないため、いつから『精力剤』として扱われるようになったのかはわかりません。 しかし、少なくとも1000年以上前から、ひょっとすると2000年以上も前から、 『高貴な身分の人が飲むもの』として扱われていたことがわかっています。 そして、当時のアステカの薬学は、ヨーロッパよりも進んでいたと考えられています。 というのも、アステカでは数千種類もの植物を薬として使いこなしており、 その薬効は、長い歴史の中で確かめられてきたものでした。 中国の長い歴史の中で使われてきた、漢方のようなイメージですね。 アステカの多くの人がチョコレートの効果を体験していたため、 チョコレートは高い効果がある飲み物として大切に扱われてきました。 時には、チョコレートの原材料、カカオ豆が 神様へのお供えものにされたり、お金の代わりに使われていたこともあるようです。チョコレートにはどんな効果があるの?
さて、実際のところチョコレートにはどんな効果があるのでしょうか? 一言でいうと、『頭を覚醒させ、活力を生み出す効果』があると考えられます。 チョコレートに含まれている成分のうち、体によさそうな成分として、以下が挙げられます- カフェイン
- テオブロミン
- ココアバター
- カカオポリフェノール
余談ですが、カフェインを多く含む、コーヒー・コーラ・チョコレートは、 いずれも最初は薬として開発され、徐々に嗜好品として扱われるようになった歴史があります。 世界中で愛される食べ物・飲み物には、何かしらの薬効が必要なのかもしれませんね。
テオブロミンは、カフェインとよく似た物質で、脳の血流をよくする働きがあると言われています。 このことから、頭の働きを活発にしてくれるのでは?という期待が持たれています。 ココアバターは、カカオ豆に含まれる脂肪分で、体を動かすためのエネルギーとして働きます。 現在の社会では『脂肪』は悪者扱いされていますが、 食べ物が豊富にとれないアステカの王国では、少し食べるだけでエネルギーを効率よく摂取できる『脂肪』は、 それだけで『薬』と言ってもいいほど価値のあるものでした。 『カフェイン』と『テオブロミン』による脳への働きと、『ココアバター』の質の高い栄養分が、 仕事に疲れた頭を覚醒させ、次の活動に向かうエネルギーをくれるのです。 もちろん、アステカ王国の人々は、「チョコレートにはカフェインが入っていて体にいい」と意識していたわけではありません。 しかし、アステカの人々はチョコレートを飲むことで、 『頭がすっきりする』『活力が湧いてくる』という効果を実感していたため、 チョコレートを大切に扱っていたのだと考えられます。 現在、私たちは仕事や家事の合間にチョコレートをつまむことが多くあります。 疲れた体を癒して、次の仕事に取り掛かるために、次の遊びをめいっぱい楽しむために、チョコレートを食べます。 それは、数百年もの間アステカ王国の人々が行っていたのとよく似た行動といえます。 私たちは『チョコレートで覚醒する!』という意識は持っていませんが、 アステカ王国の人々は長い歴史の中でチョコレートの効果を悟った上で、生活に取り入れていたのですね。 さて、チョコレートに含まれる最後の成分『カカオポリフェノール』は、 近年、最新の研究結果のもとでその効果が立証されてきた成分です。 そのお話はまた次回。 参考文献 『チョコレートの世界史-近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石-』中公新書,2013 『チョコレートの歴史』河出文庫,2017 『コーヒーと健康~カフェインと脳の働き~』https://www.nestle.co.jp/asset-library/documents/nhw/interview10.pdf