チョココラム

発酵とは?作り手に聞く美味しさの秘密

「チョコレートはどうして美味しいの?」
その秘密は、チョコレートが作られるもっと前、『カカオ豆の発酵』に隠されています。

発酵とは、微生物の働きを利用して食べ物を美味しくする工程のこと。
ヨーグルトやチーズ、お酒などを作るときに使われている工程です。
この発酵が、チョコレート作りにも使われているのを知っていますか?
チョコレートの原材料、カカオ豆は、収穫の後に発酵してからチョコレートに加工されます。

なぜ発酵をするのでしょうか?
発酵をするとカカオ豆に何がおこるのでしょうか?
そんな疑問を解決するために、カカオ研究所の中野様にインタビューをしました。
中野さまは、ベトナムの農家と協力して、みずから発酵をてがける方。
カカオの発酵について、そして、中野様が発酵にかける思いを取材しました。

 

ご挨拶

ショコラナビ 福永

初めましてショコラナビの福永です。
今日はどうぞよろしくお願いします。

カカオ研究所:中野様

こんにちは。カカオ研究所の中野です。
カカオ研究所は、私と妻、娘の3人でやっているチョコレート専門店です。
娘がチョコレートを作り、妻が販売を担当、私は ベトナムの農家の元で、カカオ豆の発酵を手がけています。

ショコラナビ 福永

中野様ちなみにお年は…

カカオ研究所:中野様

72歳です

ショコラナビ 福永

72歳!なかなかのお年なのにお一人でベトナム、大変じゃありませんか?

カカオ研究所:中野様

正直大変ですね。
誰か若くてやる気のある人が手伝いにきてくれないかなと思っています笑

カカオ豆の発酵って何をするの?

ショコラナビ 福永

ベトナムではどんなことをされているんですか?

カカオ研究所:中野様

現地の農家と一緒になって、カカオ豆の発酵のやり方を模索しています。
そして、美味しいカカオ豆ができるコツがわかったときは、それを農家さんに教えて、しっかりやってもらうのが私の仕事です。
例えば、カカオ豆をどういう風に混ぜるかとか、水を抜くタイミングとかですね。

ショコラナビ 福永

カカオ豆を混ぜる?水を抜く?

カカオ研究所:中野様

まずは、発酵のやり方を説明しますね。
①まず収穫したカカオ豆をカカオパルプと一緒に木箱の中に入れます。
②そしてバナナの葉っぱで包んだり蓋をしたりします
③この状態で数日間置いておきます。
バナナの葉っぱや木箱についている微生物の作用で発酵が進んで行きます。
この置いておく間に、木箱の中をかき混ぜたり、箱の中に溜まる水を抜いたり、という作業があります。
だいたい6日ほど置いておくと発酵が完了です。

ショコラナビ 福永

カカオパルプって何ですか?

カカオ研究所:中野様

カカオパルプとはカカオ豆を包んでいるもしゃもしゃしたものです。
かぼちゃをイメージするとわかりやすいんですが、カカオ豆がかぼちゃの種、カカオパルプがかぼちゃのわたのようなイメージです。

ショコラナビ 福永

カカオパルプも一緒に入れなきゃいけないのは理由があるんですか?

カカオ研究所:中野様

はい。このカカオパルプがあることで微生物はとても活発に活動します
なぜならカカオパルプはとても甘くて、この糖分をエネルギーにして活動する微生物がいるからです。

ショコラナビ 福永

微生物を活発に活動させてあげるのが発酵のコツなんですか?

カカオ研究所:中野様

そうとも言えますね。
先ほど言ったカカオ豆を混ぜることや、水を抜くことも、微生物を活発に活動させるのが目的です。
微生物には空気が入っていると活発に活動するものがいるので、カカオ豆を混ぜたり水を抜いたりすることで、なるべく空気に触れさせてあげるんです。

なぜ発酵を行うの?

ショコラナビ 福永

なぜ微生物を活動させる必要があるんですか?

カカオ研究所:中野様

それは、微生物の働きによってカカオ豆が美味しくなるからなんです。
やりすぎも禁物ですがね。

ショコラナビ 福永

どうして微生物の活動でカカオ豆が美味しくなるんですか?

カカオ研究所:中野様

微生物が活動すると、チョコレートの美味しさの成分が作られるからです。

ショコラナビ 福永

美味しさの成分?

カカオ研究所:中野様

チョコレートが美味しいのは、チョコレートに色々な美味しい成分が入っているからなんです。
例えばアミノ酸。
これは旨味を感じさせる成分で、昆布や鰹節などにも豊富に含まれます。
チョコレートにもアミノ酸が入っているんですが、このアミノ酸は発酵によって作られます。
カカオ豆にはたんぱく質が入っていて、微生物がこのタンパク質を分解すると、アミノ酸になります。
タンパク質の状態ではあまり美味しくないんですがアミノ酸になると美味しくなります。

ショコラナビ 福永

なるほど。
微生物が活動することでカカオ豆の美味しくなかった成分が美味しい成分に変化するということですね

カカオ研究所:中野様

その通りです。
収穫したてのカカオ豆をそのまま食べると、淡白だったり渋みがあったり、生臭いアーモンドのような味で、あまり美味しくありません。
しかし発酵した後のカカオ豆を食べると、チョコレートっぽい味とほどよい酸味が生まれています。
ちなみに色もガラリと変わります。
発酵する前の豆は紫色なのですが、発酵が終わった後は、茶色くチョコレート色になりますよ。

発酵の難しさとは?

ショコラナビ 福永

さっきやり過ぎは禁物ということもおっしゃっていましたが、どうして発酵をやりすぎてはいけないんですが?
どんどん美味しくなるのではないですか?

カカオ研究所:中野様

発酵をしている間は、美味しい成分だけでなく、美味しくない成分も作られます。
例えば酢酸。
酢酸はお酢の主成分で、とてもすっぱいです。
発酵がやりすぎると、この酢酸がたくさん作られて、とても酸っぱいカカオ豆になります。
酢酸は、チョコレートを作っている間(焙煎やコンチングをしている間)にある程度揮発しますが、
揮発しきらずに酸っぱいチョコレートが出来上がってしまうことも。
だから酢酸ができ過ぎてしまったカカオ豆はあまり使いたくありませんね。
発酵をやりすぎると、他にも、雑味が生まれてしまったり、カビが生えて食べられなくなってしまうこともあります。
そのため程よい時間で発酵を止めてやることが大切です。

ショコラナビ 福永

どのぐらいの時間で発酵を止めるんですか?

カカオ研究所:中野様

大体6日間なんですが、状況によっても変わります。
例えばベトナムには、 暑い時期と寒い時期、乾季と雨季があります。
温度が高いと微生物は活発に活動しますので発酵の時間は短めにします。
湿度が高いとカビが繁殖しやすいので豆をあまり湿らせないように気をつけます。
その微妙な塩梅を調整するのがとても難しいんです。
発酵中のカカオ豆を味見してみて、止めるか、もう少し続けるか、判断しています。

ショコラナビ 福永

職人技ですね!

カカオ研究所:中野様

今のところはその通りです。
でも私はこれでいいと思っていません。
というのも私がいなくなったら、途端に美味しくないカカオ豆が出来上がってしまうからです。
これでは美味しいカカオ豆をたくさん作ることができません。
私が管理できる量は限りがありますからね。
そのため私は現地の農家を指導しているんです。
農家の人だけでも美味しいカカオ豆を作れるようにスキルを磨いてもらえば、美味しいカカオ豆をたくさん作ることができます。

ショコラナビ 福永

美味しいカカオ豆がたくさん作れれば美味しいチョコレートがたくさん作れますね。

カカオ研究所:中野様

そのとおりです。たくさんの美味しいチョコレートをいろんな人に届けたいですね。

発酵の大変さ

ショコラナビ 福永

ベトナムで発酵をやっていて、大変なことは何ですか?
やっぱり美味しくなるやり方を見つけるのが大変なのでしょうか?

カカオ研究所:中野様

それも大変ですが…一番大変なのは、現地の農家さんに協力してもらうことです。

ショコラナビ 福永

現地の農家さんに協力してもらうこと?

カカオ研究所:中野様

そうなんです。
ベトナムの人々と日本人では、『ものづくり』に対する感覚がかなり違います。
私が『こうやってほしい』と伝えても、なかなかやってもらえないんです。

ショコラナビ 福永

えーそうなんですか?
私だったら中野さんにアドバイスをもらったら、すぐにその通りにしますが…

カカオ研究所:中野様

そうですよね。
日本人ってとても素直な人が多いと思います。
でもベトナムの人はそうでもありません。
というのも、発酵せずに作った美味しくないカカオ豆も、そこそこのお値段で売れるんです。
現状で特に困っていないのです。
そのため、私が「こうした方がもっと美味しくなりますよ」と伝えても、
「別にこのままでいいんじゃないかな?」と思われてしまうので、やってもらえません。
「1日1回混ぜてくださいね」と言っても、ハイハイと返事はしてくれますが、実際にはやってもらえないんです。

ショコラナビ 福永

それは大変ですね。
不良中学生にトイレ掃除をさせるぐらい大変そうです。

カカオ研究所:中野様

いやそこまでは言いませんが…
私がベトナムで 発酵の指導をし始めたのが去年の春頃 。
最初に出会った農家さんたちは全く協力してくれませんでした。
カカオ豆がなかなか売れずにとても困っていた農家さんが、初めて私に協力してくれたんです。

発酵にかける思い

ショコラナビ 福永

そこまでして、中野さんが発酵をやりたいと思う理由は何なんですか?

カカオ研究所:中野様

私が目指しているのは『日本のチョコレート作り』です
さっきも言った通り、日本人はものづくりに対してとても真面目に取り組みます。
そして、高い技術を持っています。
醤油、味噌、納豆、お酒など、日本には たくさんのおいしい発酵食品があります。
そこで使われている技術はカカオ豆の発酵にも生かすことができます。
そんな日本人の真面目さと技術を生かしたチョコレートはきっと最高の出来になります。
作っているのはベトナムですが、日本人の魂がこもった美味しいチョコレートです。

ショコラナビ 福永

日本人の魂がこもったチョコレート!
なんだかとてもワクワクしますね

カカオ研究所:中野様

そうでしょう。
そんなことをやっている日本人はほとんどいません。
だから大変な中でもとてもやりがいがあります。

今でもそれなりにおいしいカカオ豆が作れていますが、もっと良くしていく余地があります。
例えば、今は温度管理をしていない環境の中で発酵を行っています。
これではベトナムの季節によって、カカオ豆の味が変わってしまいます。
そこでエアコンを効かせた室内で発酵させていきたいと考えています。
そうすれば一年中、いつも美味しいカカオ豆が作れます。

ショコラナビ 福永

カカオ研究所様のチョコレート、私も食べましたがとても美味しかったです。
でもこれからもっと良くなるんですね!

カカオ研究所:中野様

その通り。
もっとよく
もっとおいしく
それが日本人のモノづくりの魂です
私たちが作るチョコレートを楽しみにしていてください。

ショコラナビ 福永

ありがとうございました!

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